男性生殖器の源をなす生殖腺は精巣Hodenである.精巣上体Nebenhodenは精巣でできた精子を集めるところであり,精管Samenleiterがこれをさらに運んでゆく.精管は腹腔のぞとでは脈管,神経,および膜性の被いといっしょに精索Samenstrangをなしており,腹腔にはいるところでこれらのものと分れる.そして小骨盤のなかでは精管の端の近くが精嚢腺とつながっている.精管は前立腺Vorsteherdrüseという複雑な構造の器官のなかで尿生殖管Urogenitalkanalに開口する.尿生殖管は尿道球腺および特別な支持作用をもつ器官および膜性の被いとともに男の外部生殖器をなしている.それに対して上にあげたものは男の内部生殖器である.
a)男性の内部生殖器
1. 精巣と精巣上体Testis et Epididymis, Hoden und Nebenhoden
精巣は陰嚢のなかにはいっている2つの腺である.その分泌物はきわめて特殊化した細胞,すなわち精子Spermien, Samenfädenからなりたっている.精巣は側方からやや圧平された形で,これに外側面Facles lateralisと内側面Facles medialisの2面,自由縁Margo liberと付着縁である間縁膜Margo mesorchicus,および上端Extremitas capitalisと下端Extremitas caudalisを区別する.
精巣は縦径が4.0~5.5cm,矢状径2.0~3.5cm,横径1.8~2.4cmである.重量は25grと30grのあいだである.しかし1側のものが他側のものより重いことは珍しくない.(日本人の成人の精巣は平均して縦径が右3.52cm左3. 38 cm,矢状径が右2.46cm,左2.40 cm,横径が右1.68cm,左1.65cmである(森岡雄太郎,岡山医誌48年下,昭和11年).また重量の平均は右が8.39 gr,左8.45grである(稗田五郎,森優,医研究3巻,昭和4年).)
精巣上体Epididymis, Nebenhodenは長ぼそくて,精巣の間膜縁に沿ってくここにいている.精巣上体の上端部は精巣上体頭Caput epididymidisといい,幅が広くて,鈍端をもち,精巣の上端よりも上方にまで伸びている.下端は精巣上体尾Cauda epididymidisといい,急に曲がって精管に移行し,精管はそこから上方にすすむ.中央部は精巣上体体Corpus epididymidisとよばれ,尾よりも細くて,その横断面はほぼ三角形をしている.
精巣上体の外側面は凸面をなし,これと外側稜には何もくここにいていない.そして前面も頭と尾の所を除けば自由面をなしている.精巣と精巣上体を被っている漿膜は腹膜の一部であって,この2つの器官の上端部と下端部のあいだで外側面において,深い裂け目のような形をしたくぼみをなして入りこんでいる.これを精巣嚢Bursa testicularisという(図299).このくぼみの入口を境して横走する漿膜のひだが2つある.このひだを精巣上体頭ヒダPlica capitis epididymidis, 精巣上体尾ヒダPlica caudae epididymidisという.これらがどの高さにあるかについてはいくぶん個体差がある.
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[図296]左の精巣と精巣上体の外側面 陰嚢を入れる腔所の被膜を切り開いたところ.(9/10)
[図297]右の精巣と精巣上体の内側面 陰嚢中隔を除去して剖出したもの. (9/15)
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[図298]37才の男の精巣の切片図
[図299]19才の男の精細管×450
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精巣の上端のところに精巣上体頭に密接して,しばしば小さな円いもの,またはやや長くのびたものがしっかりと着いている.これは精巣垂Appendix testis, ungestielte Hordatide(柄のない水胞体)とよばれる.また精巣上体頭にもしばしばそれより長い柄をもったものがついている.これを精巣上体垂Appendix epididymidis, gestielte Hydatide des Nebenhodens(柄のある水胞体)という(図296).
これらのものは痕跡器官で,きわめて個体差がある.この2つが両方ともないことがある.これらはなかなかだいじな意義をもつもので,精巣垂は女の卵管の腹腔端に当り,精巣上体垂はウォルフ体Wolffscher Körper(原腎体)の名ごりであると一般に考えられている.これら2つの付属物のほかにもなお漿液を入れた漿膜の突出部のあることが珍しくない.その場合には水胞体の数が増していることになる.
精索のなかで精巣上体頭の近くに第3の痕跡器宮というべき精巣傍体Paradidymis, Beihoden(ジラルデ器官(Giraldessches Organ))があり,これは結合組織のなかにうずまっており,ときには精巣上体とつながっている.これは白色または黄色をおびた小塊で,糸玉のようにからみあって盲状に終る小管からなりたっている.その上皮はなお残っているのが普通である.これは原腎の名ごりで女の卵巣薯体に相当する(図297).
精巣の脈管と神経については245頁参照.
精巣の構造
精巣はかなり厚い丈夫な被膜,すなわち白膜Tunica albugineaで包まれている.白膜の外面には精巣の胚上皮Keimepithelがある(図298).白膜は白色をした線維性の膜であって,内側は血管に富む疎性結合組織の層に移行している.間膜縁のところで白膜は内方に突出したかなり厚い高まりを作っていて,これを精巣縦隔Mediastinum testisという.その上部は下部より幅が広いが,間膜縁の一部をしめているだけである(図300, 8,301).精巣縦隔の前縁と側面からは多数の線維性の索と精巣小中隔Septula testisとよばれる不完全な隔壁とが放射状に出ている.これらの外方の端は白膜の内面のいろいろなところに着いている.
精巣の腺実質は軟かくて,帯赤黄色をしていて,しっかりとまとまっている細い糸の集団である.この集団は精巣縦隔に尖端を向けた錐体状の多数の小葉からなりたっている.
精巣小葉Lobuli testisの数は250~300である.その大きさはいくぶんまちまちであって,前内側にあるものはそのほかの部分のものより長くて,幅も広い.精巣小葉はほとんど全部がまがりくねった細い管,すなわち精細管Tubuli contorti, Samenkandlchenからなっている.精細管は円い小管で約140µ(Stieve[1924]によると180~300µ)の直径をもち,たがいに数多くのつながりをもっている.またその初めは盲状に終わっているのが認められる.白膜の下にある精細管の網からは多数の小管が出て,まがりくねりながら進んで精巣縦隔に達している.その経過に伴って小管はたがいに鋭角を作って合しているのでその数が次第に減少する.ついで縦隔のなかにはいり,網のようにつながって精巣網Rete testis, Hodennetzを作っている,この網をなしている管の直径は24~180µの間である.
精細管の壁は1. 何層かをなして重なる扁平な結合組織細胞;2. 繊細な基礎膜;3. 重層の精上皮Epithelium seminaleからなりたっている.精上皮には静止期と活動期とがある.同一の精巣のなかでこれら2つの状態が同時にあり,活動期のいろいろな時期がやはり同時にみられる.
静止期には精上皮は円みをおびた細胞のいくつかの層からできている.それに対して活動期,すなわち精子発生Spermiogeneseの間には精上皮がはなはだ特徴のある分化をする(図298, 299, 320~305)
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上皮細胞の一部は精子が発達しているあいだ,これに栄養をあたえ,また支持するものに変わっている.これをセルトリ支持細胞Sertolische Stützzellen(Fußzellen)という.そのほかのいっそう大きい部分は精細胞Samenzellenに変わる.後者はきわめて規則的で活発な有糸分裂をなして増殖し,はっきりと柱のような並びかた(精細管の軸に放射状に)をしている.壁にすぐ接している精細胞は精祖細胞 Spermiogonien, Stammzellenと呼ばれる.これに続いてその内方にある層をなすのが,精母細胞Spermioaytenであって,これは精祖細胞から最初にできるものである(図299).精母細胞が精娘細胞Praespermiden(IとII)と精子細胞Spermidenをつくる(図302).精子細胞はセルトリ網胞の末梢の原形質にとり入れられ,これから栄養物を供給される(Peter).そしてここで完全な精子となるのである(図299).
[図300]人の右の精巣とこれを包む被膜の横断 精巣の下部を横断してある.8 精巣縦隔.
[図301]精巣と精巣上体の縦断×1
精巣網では上皮は扁平な上皮細胞と低い円柱上皮細胞とからなっている.精巣縦隔の結合組織のなかには平滑筋の網が広がっている.
精巣小中隔の結合組織は,固有層Tunica propriaと呼ばれるおのおの精細管の周りにある間質結合組織とつながっている.この結合組織のなかには血管,リンパ管,神経のほかに,脂肪と色素粒子および類結晶をもった円みのある細胞が散在したり,あるいは集団を作って存在している.これが精巣の間細胞Zwischenzellenである(図298).これは粒子をもつ結合組織細胞の1種である.
新鮮な精細管でみると,精祖細胞のなかにもきわめて小さな類結晶が認められるが,これはごく少数にはすべての精祖細胞に存在するものである.
K. Peter, Arch. mikr. Anat., 53. Bd.,1898.
精子発生Spermiogenese(図298, 299, 302~305)
精子細胞が精子に変形するのは次のようなぐあいである.精子細胞(図302, 304, 305)は普通の細胞と同じく細胞体と核,および中心小体,それに中心球Sphäre,内網装置Binnengerüstからなっている.そのほか原形質内に含まれる特別のもの,たとえばミトコンドリアなどがある.
核からは精子Spermiumの頭部Kopfができ,中心球からは頭帽Kopfkappeができる.中心小体は頚部Halsと結合部Verbindungsstüskおよび軸糸Achesenfadenの形成に関与している.細胞体は微小粒体Mikrosomenと軸糸と尾部Schwanzの被膜とをつくる.ミトコンドリアはラセン糸Spiralfadenとなって軸糸の頚部のまわりにある.
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円い形をした精子細胞が次のように変形して細長くのびた精子になる(図302, 305).中心小体は中心球から離れて,2つの中心子に分れる.核は中央からはずれた位置に動き,精子細胞内で精細管のへりに近いがわに移っていく.
[図302]精子発生の模形図.(Waldeyerの著"Geschlechtszellen"より).
図は精細管の横断面でI~VIの仕切りは精子発生のいろいろな段階をしめしている.しかし実際にはこのままの像がみられるおけではない.
第Iの仕切り
精細管の壁のところにはセルトリ細胞と精祖細胞がある.第2列には精母細胞が5個あり,なお図305cの段階の多数の精子細胞がある.
第IIの仕切り
図305dの段階における精子細胞でセルトリ細胞とつながっている.
第IIIの仕切り
さらに発達して図305eの段階にある精子細胞.精祖細胞と精母細胞は大きくなり,新しい分裂の準備ができている.
第IVの仕切り