耳の三半規管! 特発性前庭疾患 〜急にフラフラして傾いて歩くんです〜 [神経感覚器]|病気と予防|獣医師や動物看護師が贈るペットコラム
飼っている犬が突然フラフラしてしまったらどうしますか?原因に心当たりがあれば落ち着いて対処できますが、知らなければびっくりして慌ててしまいますよね。犬が急にフラフラする病気・・特発性前庭疾患についてお話します。
★どんな病気?★
では特発性前庭疾患とはどのような病気なのでしょうか?
「特発性」というのは「原因不明」という意味です。この病気は主として突然、しかも中年〜老齢の時期に起こる病気で、犬種に関係なく、どの犬にも起こります。そして前庭の病気の中では内耳感染に続いて、2番目に多い急性の前庭異常です。
発症してから24時間以内に病気の症状がピークになることが多く、その症状は軽度なものから重度なものまであります。またある季節に発生して他の季節はまったく症状を示さないこともあります。
この病気になると、平衡感覚や体のバランスを保つことが出来なくなるほか、様々な脳神経異常を起こします。その徴候は時に分かりづらいこともあり、突然の発病に飼い主さんは慌てさ せられるケースも多いようです。
また、急性の内耳炎でも同一の症状を示すため、特発性前庭疾患だと診断するには、内耳炎を起こす原因である感染症を除外することが重要になります。
また、半規管はリンパ液で満たされた3つの管が互いにほぼ直角に交わったもので、「三半規管」ともいわれています。
★どんな症状になるの?★
医学上の問題腕や手が居眠りやとげだらけの感じている
前庭障害により体のバランスをうまく保つことが出来なくなるため、めまいやよろめきが起こります。そしてまっすぐ歩くことが出来なくなり重症の場合は倒れこんでしまいます。さらに嘔吐なども起こり時にはこらえられないほどになりますが、それは一過性です。
また、首の筋肉の収縮力が低下することで首が曲がってしまいます。それは動物特有の「捻転斜頚」と呼ばれるもので、そのほかに眼球がグルグル回転する「眼振」が見られます
その後、眼振は数日で見られなくなりますがよろめきなどの運動失調は3〜6週間続き、その後徐々に回復に向かいます。一般的に特発性前庭疾患は治癒する病気ですが、回復後も後遺症として生涯にわたってわずかな斜頚が続くことがあります。
★他の病気を除外して診断します★
特発性前庭疾患は原因不明で起こる病気のため、確定診断はありません。よって逆に他の病気を除外することでこの病気であると診断します。
以下のような諸検査から他の病気が除外でき、この病気と同じ症状とその経過が認められれば特発性前庭疾患と診断することが出来ます。
皮膚には発疹がかゆみません
■神経機能の検査から前庭徴候以外の神経症状が認められないこと
■感染症が原因である急性内耳と似たような症状を起こすため、耳鏡検査やレントゲン検査により急性内耳炎を除外すること
■血液検査や尿検査において、他の疾患や炎症を思わせる所見が認められないこと
■頭部の外傷や中毒の可能性もありえるため、病歴を調べそれらを除外すること
★治療法はあるの?★
原因がわからないため、一般的に原因療法はないといわれています。
ただし、この病気により食欲がなくなってしまった場合には対症療法として補液をおこないます。また炎症が完全に除外できない場合には抗生物質を投与します。中には甲状腺ホルモンの内服で効果があったという報告もあります。なお、支持療法として転倒などによる外傷を予防したり、十分な栄養を補給することが大切です。
特発性前庭疾患は時間と共に穏やかに改善していくケースがほとんどですが、症状が徐々に重くなっていくようなら要注意です。その場合は脳に異常がある可能性があるため、改善は難しくなります。
また、老齢の時期に多く発生するため、このまま痴呆の症状が出て起立不能の状態が 続き、寝たきりになるケースもあります。
★自宅で予防対策をしてみましょう★
この病気は時間が経てばほとんどが回復する病気ですが、平衡感覚やバランスが取れなくなる病気のため、回復するまでの間は飼い主さんの自宅での看護が必要不可欠になります。
消化障害やヒイラギジョリー体
よろめきが起こって転倒してしまう場合は、倒れた時に外傷を負わないように角のある家具をクッションや座布団などでやわらかいものでカバーしたり、イスやテーブルなどがある場合はできる限り置かないようにし、広い場所を設けます。
また、寝たきりになると床ずれが出来てしまうことも多くなります。そのため時間帯によって寝返りをさせたり、梱包用のエアシート(プチプチシート)を寝床に重ねて敷くことによって床ずれを軽減させましょう。
★ペットと二人三脚で!★
特発性前庭疾患に対しては、病院での治療より毎日一緒に暮らす飼い主さんや家族の看護がとても大事になります。そして原因不明の病気のためどの動物でも起こる可能性があり、飼い主さんのペットに限り特別なことというわけではないのです。
この病気に限らず、毎日の生活をペットと共に二人三脚をすることによって、病気は何倍も早く治る可能性があります。ペットが飼い主さんの看護を必要としていることを常に頭におきながら治療に専念すれば、治った時の喜びはまた一段と大きなものになるでしょう。
耳の構造図↑クリックして拡大
★前庭ってどこ? どんな働き?★
「前庭」の場所やその働きについてご説明しておきましょう。
前庭は耳の中でも一番奥の、内耳にあります。前庭は「卵形嚢(らんけいのう)」と「球形嚢(きゅうけいのう)」と「半規管(はんきかん)」からなる複雑な構造でできています。卵形嚢と球形嚢には炭酸カルシウムでできた耳石が存在し、水平方向や重力の方向を感知します。
頭を動かすと管の中のリンパ液も動き、このリンパ液の動きに反応して神経伝達がおこなわれ、頭がどの方向に動いているのかを脳に伝えます。これによって、体のバランスを保つ動作をとることができるのです。
よって前庭は、姿勢や体のバランスを保つことで平衡感覚を維持する働きをする大切な器官です。また、目の運動や筋肉の協調を維持する働きもします。
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