2-25
男性生殖器の源をなす生殖腺は精巣Hodenである.精巣上体Nebenhodenは精巣でできた精子を集めるところであり,精管Samenleiterがこれをさらに運んでゆく.精管は腹腔のぞとでは脈管,神経,および膜性の被いといっしょに精索Samenstrangをなしており,腹腔にはいるところでこれらのものと分れる.そして小骨盤のなかでは精管の端の近くが精嚢腺とつながっている.精管は前立腺Vorsteherdrüseという複雑な構造の器官のなかで尿生殖管Urogenitalkanalに開口する.尿生殖管は尿道球腺および特別な支持作用をもつ器官および膜性の被いとともに男の外部生殖器をなしている.それに対して上にあげたものは男の内部生殖器である.
a)男性の内部生殖器
1. 精巣と精巣上体Testis et Epididymis, Hoden und Nebenhoden
精巣は陰嚢のなかにはいっている2つの腺である.その分泌物はきわめて特殊化した細胞,すなわち精子Spermien, Samenfädenからなりたっている.精巣は側方からやや圧平された形で,これに外側面Facles lateralisと内側面Facles medialisの2面,自由縁Margo liberと付着縁である間縁膜Margo mesorchicus,および上端Extremitas capitalisと下端Extremitas caudalisを区別する.
精巣は縦径が4.0~5.5cm,矢状径2.0~3.5cm,横径1.8~2.4cmである.重量は25grと30grのあいだである.しかし1側のものが他側のものより重いことは珍しくない.(日本人の成人の精巣は平均して縦径が右3.52cm左3. 38 cm,矢状径が右2.46cm,左2.40 cm,横径が右1.68cm,左1.65cmである(森岡雄太郎,岡山医誌48年下,昭和11年).また重量の平均は右が8.39 gr,左8.45grである(稗田五郎,森優,医研究3巻,昭和4年).)
精巣上体Epididymis, Nebenhodenは長ぼそくて,精巣の間膜縁に沿ってくここにいている.精巣上体の上端部は精巣上体頭Caput epididymidisといい,幅が広くて,鈍端をもち,精巣の上端よりも上方にまで伸びている.下端は精巣上体尾Cauda epididymidisといい,急に曲がって精管に移行し,精管はそこから上方にすすむ.中央部は精巣上体体Corpus epididymidisとよばれ,尾よりも細くて,その横断面はほぼ三角形をしている.
精巣上体の外側面は凸面をなし,これと外側稜には何もくここにいていない.そして前面も頭と尾の所を除けば自由面をなしている.精巣と精巣上体を被っている漿膜は腹膜の一部であって,この2つの器官の上端部と下端部のあいだで外側面において,深い裂け目のような形をしたくぼみをなして入りこんでいる.これを精巣嚢Bursa testicularisという(図299).このくぼみの入口を境して横走する漿膜のひだが2つある.このひだを精巣上体頭ヒダPlica capitis epididymidis, 精巣上体尾ヒダPlica caudae epididymidisという.これらがどの高さにあるかについてはいくぶん個体差がある.
S. 229
[図296]左の精巣と精巣上体の外側面 陰嚢を入れる腔所の被膜を切り開いたところ.(9/10)
[図297]右の精巣と精巣上体の内側面 陰嚢中隔を除去して剖出したもの. (9/15)
S. 230
[図298]37才の男の精巣の切片図
[図299]19才の男の精細管×450
S. 231
精巣の上端のところに精巣上体頭に密接して,しばしば小さな円いもの,またはやや長くのびたものがしっかりと着いている.これは精巣垂Appendix testis, ungestielte Hordatide(柄のない水胞体)とよばれる.また精巣上体頭にもしばしばそれより長い柄をもったものがついている.これを精巣上体垂Appendix epididymidis, gestielte Hydatide des Nebenhodens(柄のある水胞体)という(図296).
これらのものは痕跡器官で,きわめて個体差がある.この2つが両方ともないことがある.これらはなかなかだいじな意義をもつもので,精巣垂は女の卵管の腹腔端に当り,精巣上体垂はウォルフ体Wolffscher Körper(原腎体)の名ごりであると一般に考えられている.これら2つの付属物のほかにもなお漿液を入れた漿膜の突出部のあることが珍しくない.その場合には水胞体の数が増していることになる.
精索のなかで精巣上体頭の近くに第3の痕跡器宮というべき精巣傍体Paradidymis, Beihoden(ジラルデ器官(Giraldessches Organ))があり,これは結合組織のなかにうずまっており,ときには精巣上体とつながっている.これは白色または黄色をおびた小塊で,糸玉のようにからみあって盲状に終る小管からなりたっている.その上皮はなお残っているのが普通である.これは原腎の名ごりで女の卵巣薯体に相当する(図297).
精巣の脈管と神経については245頁参照.
精巣の構造
精巣はかなり厚い丈夫な被膜,すなわち白膜Tunica albugineaで包まれている.白膜の外面には精巣の胚上皮Keimepithelがある(図298).白膜は白色をした線維性の膜であって,内側は血管に富む疎性結合組織の層に移行している.間膜縁のところで白膜は内方に突出したかなり厚い高まりを作っていて,これを精巣縦隔Mediastinum testisという.その上部は下部より幅が広いが,間膜縁の一部をしめているだけである(図300, 8,301).精巣縦隔の前縁と側面からは多数の線維性の索と精巣小中隔Septula testisとよばれる不完全な隔壁とが放射状に出ている.これらの外方の端は白膜の内面のいろいろなところに着いている.
精巣の腺実質は軟かくて,帯赤黄色をしていて,しっかりとまとまっている細い糸の集団である.この集団は精巣縦隔に尖端を向けた錐体状の多数の小葉からなりたっている.
精巣小葉Lobuli testisの数は250~300である.その大きさはいくぶんまちまちであって,前内側にあるものはそのほかの部分のものより長くて,幅も広い.精巣小葉はほとんど全部がまがりくねった細い管,すなわち精細管Tubuli contorti, Samenkandlchenからなっている.精細管は円い小管で約140µ(Stieve[1924]によると180~300µ)の直径をもち,たがいに数多くのつながりをもっている.またその初めは盲状に終わっているのが認められる.白膜の下にある精細管の網からは多数の小管が出て,まがりくねりながら進んで精巣縦隔に達している.その経過に伴って小管はたがいに鋭角を作って合しているのでその数が次第に減少する.ついで縦隔のなかにはいり,網のようにつながって精巣網Rete testis, Hodennetzを作っている,この網をなしている管の直径は24~180µの間である.
精細管の壁は1. 何層かをなして重なる扁平な結合組織細胞;2. 繊細な基礎膜;3. 重層の精上皮Epithelium seminaleからなりたっている.精上皮には静止期と活動期とがある.同一の精巣のなかでこれら2つの状態が同時にあり,活動期のいろいろな時期がやはり同時にみられる.
静止期には精上皮は円みをおびた細胞のいくつかの層からできている.それに対して活動期,すなわち精子発生Spermiogeneseの間には精上皮がはなはだ特徴のある分化をする(図298, 299, 320~305)
S. 232
上皮細胞の一部は精子が発達しているあいだ,これに栄養をあたえ,また支持するものに変わっている.これをセルトリ支持細胞Sertolische Stützzellen(Fußzellen)という.そのほかのいっそう大きい部分は精細胞Samenzellenに変わる.後者はきわめて規則的で活発な有糸分裂をなして増殖し,はっきりと柱のような並びかた(精細管の軸に放射状に)をしている.壁にすぐ接している精細胞は精祖細胞 Spermiogonien, Stammzellenと呼ばれる.これに続いてその内方にある層をなすのが,精母細胞Spermioaytenであって,これは精祖細胞から最初にできるものである(図299).精母細胞が精娘細胞Praespermiden(IとII)と精子細胞Spermidenをつくる(図302).精子細胞はセルトリ網胞の末梢の原形質にとり入れられ,これから栄養物を供給される(Peter).そしてここで完全な精子となるのである(図299).
[図300]人の右の精巣とこれを包む被膜の横断 精巣の下部を横断してある.8 精巣縦隔.
[図301]精巣と精巣上体の縦断×1
精巣網では上皮は扁平な上皮細胞と低い円柱上皮細胞とからなっている.精巣縦隔の結合組織のなかには平滑筋の網が広がっている.
精巣小中隔の結合組織は,固有層Tunica propriaと呼ばれるおのおの精細管の周りにある間質結合組織とつながっている.この結合組織のなかには血管,リンパ管,神経のほかに,脂肪と色素粒子および類結晶をもった円みのある細胞が散在したり,あるいは集団を作って存在している.これが精巣の間細胞Zwischenzellenである(図298).これは粒子をもつ結合組織細胞の1種である.
新鮮な精細管でみると,精祖細胞のなかにもきわめて小さな類結晶が認められるが,これはごく少数にはすべての精祖細胞に存在するものである.
K. Peter, Arch. mikr. Anat., 53. Bd.,1898.
精子発生Spermiogenese(図298, 299, 302~305)
精子細胞が精子に変形するのは次のようなぐあいである.精子細胞(図302, 304, 305)は普通の細胞と同じく細胞体と核,および中心小体,それに中心球Sphäre,内網装置Binnengerüstからなっている.そのほか原形質内に含まれる特別のもの,たとえばミトコンドリアなどがある.
核からは精子Spermiumの頭部Kopfができ,中心球からは頭帽Kopfkappeができる.中心小体は頚部Halsと結合部Verbindungsstüskおよび軸糸Achesenfadenの形成に関与している.細胞体は微小粒体Mikrosomenと軸糸と尾部Schwanzの被膜とをつくる.ミトコンドリアはラセン糸Spiralfadenとなって軸糸の頚部のまわりにある.
S. 233
円い形をした精子細胞が次のように変形して細長くのびた精子になる(図302, 305).中心小体は中心球から離れて,2つの中心子に分れる.核は中央からはずれた位置に動き,精子細胞内で精細管のへりに近いがわに移っていく.
[図302]精子発生の模形図.(Waldeyerの著"Geschlechtszellen"より).
図は精細管の横断面でI~VIの仕切りは精子発生のいろいろな段階をしめしている.しかし実際にはこのままの像がみられるおけではない.
第Iの仕切り
精細管の壁のところにはセルトリ細胞と精祖細胞がある.第2列には精母細胞が5個あり,なお図305cの段階の多数の精子細胞がある.
第IIの仕切り
図305dの段階における精子細胞でセルトリ細胞とつながっている.
第IIIの仕切り
さらに発達して図305eの段階にある精子細胞.精祖細胞と精母細胞は大きくなり,新しい分裂の準備ができている.
第IVの仕切り
結婚>は何ですか?
第IIIの仕切りと同じ段階であるが,それより少しすすんだところ.
第Vの仕切り
精子細胞はすでにほとんど成熟した精子に変形しており,精母細胞は一部のものが分裂して精娘細胞と精子細胞を作っている.
第VIの仕切り
成熟した精子で,頭部,中間部,尾部をもち,一部は遊離し,一部はまだセルトリ細胞とつながっている.また精母細胞の分裂により多数の精子細胞ができている.精子細胞のいくつかは精子に変形しはじめている.
中心球はこれに接する微小粒体とともに精細管のへりに向かった核の(前)極のほうへ次第に移動してゆき,ついには核の上にかぶさつて,核の前部を包む被い,すなわち頭帽Kopfkappeと呼ばれるものになる.しかし人の精子にはこの頭帽がみられない.
核はそのあいだにやや引き伸ばされ,前端は先がとがって"とがりをもつ球形Spitzkugelform"になる.また核材はクロマチンの塊りがたがいに近よってだんだん密になる.
S. 234
こうして核は次第に精子の頭部の形をしてくる.頭部は微小粒体をもった細胞形質性の"頭部被膜Kopfhülle"で被われている.
二つの中心子のうち(後方の)1つは精子細胞の精細管の内腔に向かった表面のところにゆく.そこでは細胞から1本の鞭毛が出てくる.この鞭毛が後方の中心子とつながっていて,これが精子の尾のなかの軸糸になる.軸糸は幾本かの細い原線維からできている.前方の中心子は核の後極に移り,これとかたく結合する.それからしばらくすると後方の中心子が2つに分れて,その1つは輪状になり,もう1つは円板状になる.円板状となったものは,そのあいだにますます伸びてきた鞭毛を伴って,核とつながっている前方の中心子のそばにいく.そうして中間質によってこの中心子とつながって,成熟した精子の頚部の小結節Halsknötchenになる(図307).この小結節は中間質とともに精子の頚部を形づくるのである.後方の中心 子が前進するときに鞭毛の前部は輪状の部分を貫いて細胞体に入っている.そこでは鞭毛の前部が特別な3つの層をもつようになる.すなわち1. 薄い被膜,これは精子細胞のそとにある鞭毛の部分を包む被膜と中断せずに続いている.この層に続いて2. かなり粗大な粒子(ミトコンドリア)からなるラセン糸と3. ラセン糸を外側から包んでいる外の被膜である(図307).
[図303]精母細胞 核のすぐ左に中心球があり,そのなかには亜鈴状の中心子が2つある.
[図304]精子細胞 模型図(Meves 1900)
[図305]精子細胞が変形して完成した精子になるところ(Mevesの模型図)
S. 235
鞭毛の前部は以上の3層の被膜をもっており,精子の結合部Verbindungsstückとよばれる.これはつまり後方の中心子が前後に分れて発達する,その2つのものの間である.すなわち板状のものが前の境であり,輪状のものが後の境である.
[図306]ヒトの精子 左の2つはRetziusによる.
いちばん右はJensenの所見をとり入れてある.そして左の1つは側方から,右の2つは広い面のがわからみたものである.
[図307]ヒトの精子の構造(模型図) (Stieveによる).
鞭毛の結合部より後方の部分も膜で包まれている.鞭毛の後端,つまり終末部Endstückだけは被膜がない(図306).
精子細胞の細胞体のうち利用されない部分は,なおしばらくのあいだ精子の尾部のところについているが,これが次第になくなる.おそらくは溶けてしまって,精子の間にみられる液体の一部になってしまうのであろう.
S. 236
成熟した精子の構造(図306, 307)
人の精子は糸状のものであって,その長さは58~67µである.頭部Kopf,中間部Mittelsttück,尾部Schwanzの3つの主要部分からできている.
頭部は広いほうの面からみると卵円形(ほとんど楕円といえる)で,側方からみると西洋ナシの形である.細くなっている端は頭部の前部である.頭部は細胞形質性のきわめて薄い被膜に包まれている.この被膜には微小粒体や原線維がある(図307).頭の後部はドングリの実がカラのなかにはいっているように被膜に包まれている.この被膜の前縁には縁輪Randreifenがある.(頭帽Kopfkappeは人では存在しない).
中間部Mittelstückは頚部Halsと結合部Verbindungsstückとからなりたっている.頚部は前方の中心子(頚部小結節Halsknötchen)と均質性の中間物質Zwischensubstanzからできている.この中心子は2つの小粒からなっているらしくみえる.そのうちの1つからは1本の中心原線維Zentralfibrilleが出ている.結合部は前方で円板状の横板Querscheibeによって境され,後の境は後方の中心子の輪状の部分(終輪Schlußring)である.この部分の軸をなして中心原線維があって,これが尾部に続いている.軸糸の周囲には原形質性の薄い被膜があって,そのまわりをミトコンドリアからできたラセン糸Spiralfadenが8~9回まいている.ラセン糸は微小粒体をもった明るい中間物 質のなかにうずまっている.ラセン糸は中間物質とともにラセン膜Spiralhülleを形づくるのである.ラセン糸の外側に原形質性の薄い鞘がある.
尾部Schwanzは終輪のうしろで始まる.これは主部Hauptstückと終末部Endstückという2つの部分からなっている.両部とも原線維の集まりである軸糸をもっている.軸糸は終末部では露出しているが,主部では被膜がその上にある(図306).
上に述べたのは,典型的な形の精子であるがそのほか異型も恐らく常に存在しているようである(Broman, Anat. Anz., 21. Bd.,1902). Bromanは次のような変つたものがあるという.1. 大いさの違い(過大精子と過小精子Riesen-und Zwergspermien);2. 頭部は1つで,尾が2本(1~2:1000),または3本(1~2:10000),あるいは4本(きわめてまれ)のもの;3. 頭が2つまたはそれ以上あり,それに対して尾が1本ないし2本以上あるもの;4. 大きさは正常であるが形が異様なもの.
精巣上体の構造
精巣の白膜は精巣上体頭の高さで12本ないし15本の輸出小管Ductuli efferentesによって貫かれている.輸出小管は精巣上体頭のなかへ進み,その一部を形成している(図308, 309).
精巣網から出た輸出小管は初めはまっすぐである.しかし精巣上体頭に近づくとともに,次第に強くうねって,かくして精巣上体小葉Lobuli epididymidisを形づくる.この小葉は円錐形をしていて1列をなしてたがいに並んでいる.円錐の底は精巣上体頭の方に,尖端は精巣のほうに向いている.上に述べたことでもわかるように精巣上体小葉は同時に精巣小葉とは反対の位置にある.精巣小葉と精巣上体小葉とはおのおのの基底面をたがいに反対に向け,尖端をたがいに向け合っている.これら2つの小葉の合するところに精巣網ができている.
精巣上体小葉のうち最も大きいものは,ほぼ12mmの長さで,それぞれ1本の管がはなはだしくからみ合ってできた輸出小管円錐Conus vasculosusからなりたっている.この管の長さは16~20cmである.輸出小管のうちいちばん上方にあるものがまがるところから精巣上体管Ductus epididymidis, Nebenhodengangがはじまる.この管は数多くのうねりをなし途中で中断することなく下方に走っている(図308, 309).1精巣上体管は2~10cmの間隔でこれに合流するすべての小葉の端を受け入れている.しかし精巣上体管じしんが強くうねっているので各円錐の開口部はたがいに接近している.精巣上体管はこのようにうねったままで精巣上体の体と尾に続いている.体と尾はこのうねった精巣上体管だけからなっているのである.
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それに対して精巣上体の頭は本質的には輸出小管と精巣上体小葉,および精巣上体管の頭部からなっている(図308, 309).
精巣上体管を引きのばしてうねりを取るとその長さは5~6mになる.
[図308]左の精巣,および剖出した精巣上体×1
[図309]精巣と精巣上体の構造の模型図
精巣上体管ははじめの直径が0.5~0.4mmで,これは円錐形の部分のうねっている管の直径と等しい.尾のほうに向かって初めは管が細くなって0.3mmくらいになる.ついで次第に太くなり,うねりかたも少なくなり,太い精管に移行する.精管の初まりの部分はまだうねっている.
精巣上体にはいろいろな変化を示す迷小管Ductuli aberrantesというものがある.ずっと以前から知られているのは普通6~8cm,ときには20 cm以上にも達するかなり太い盲状に終る管で,これがときに枝分れしていて,精巣上体管の下部にあるうねった付属物である.また同じように盲状に終る管が精巣上体の頭にあることもまれでない.これは上述の付属物と同じく巻きこんで小さな1小葉をなしている.近頃になってRothは精巣網にも迷小管を見出した.それによるとこの迷小管は単一であったり,または重複しており,常に精巣網とつながっていて,そこでは輪出小管と同じ広さであり,たいていは精巣上体頭に向かって盲状に終るところで広くなっている.この管の内側は線毛をもつ円柱上皮で被われている.
微細構造.輸出小管は不規則な角をもった横断面をもち,補充細胞および群をなす粘液細胞をもった線毛円柱上皮からできている.上皮の外側には繊細な条をもった基礎膜と精巣網の筋束につながる輪走筋層がある(図310, 311)・精巣上体管の様子はこれと全く異なっている.横断面は円形で,上皮は丈の高い,長い円柱細胞で,不動毛の束が管の内腔に向かって突出している(Fuchs).細胞の基底部のあいだには基底細胞がある(図312).上皮の外側には薄い基礎膜と平滑筋のよく発達した輪走線維が接している.円錐部をなす輸出小管および精巣上体管のうねっている部分は結合組織の繊細な束でまとめられている.また個々の輸出小管円錐のあいだにはかなり多量の結合組織がある(図310).
S. 238
[図310]精巣上体の頭の横断図27才の男
[図311]精巣上体の頭の輸出小管 強拡大
[図312]精巣上体管の断面 強拡大
[図313]精巣上体の横断図 27才の男
S. 239
[図314]精管の横断図27才の男
[図315]精嚢腺の断面27才の男
S. 240
ハンセン病の広がりはどうですか?
迷小管Ductuli aberrantesと精巣傍体Paradidymisは結合組織の壁からできている細い管で,内面は丈の低い線毛上皮で被われている.精巣上体垂Appendix epididymidisは丈の低い円柱上皮をもっている.精巣垂Appendix testisは血管に富む結合組織からなっている充実性の器官で,線毛円柱上皮で被われている.この上皮は表面にいくつかあるくぼみのなかにも入りこんでいる.また精巣垂が中空であることもあり,そのさいには内腔が線毛上皮で被われている.
生理 作用:精巣上体はずっと古くから知られているように精子の集積する所である.しかしまた分泌器官でもあって,その上皮は特殊な分泌物を出している
(Hammar, Fuchs, v. Lanzなど).しかしv. Möllendorfによると精子がそのなかに浮んでいる液体は精巣で生じたもので,この液の一部が精巣上体管の上皮細胞によって吸収されるのであるという.Wagenseilはこの吸収は間違いなくおこるが,分泌もほとんど疑なくおこるという.
Hammar, J. A., Arch. Anat. Phys.,1897-Fuchs, H., Anat. Hefte,19. Bd.,1902.--Wagenseil, E, Z. Zellforsch., 7. Bd.,1928-v, Lanz, Wallraff, Handfest und Wimmer, Z. mikr.-anat. Forsch., 37. Bd.,1935.
2. 精管と精嚢腺Ductus deferens et Glandula vesiculosa, Sainenleiter und Bläschendrüse(図262, 266, 267, 270, 297, 308, 309, 314, 315)
精管Ductus deferensは精巣の導管であって,厚い壁をもち,円形の丈夫な管であって,50~60cmの長さがある.これは精巣上体管の続きをなしている.精管は精巣上体の下端で始まり,初めはうねりながら上昇するが,ついで精巣上体の内側と精巣の後部に沿ってまっすぐ上方に走る.しかし精巣および精巣上体とはこれらを養っている血管によってへだてられている(図297).ここでは精管は精索Samenstrangの主要成分をなしていて,精索のなかを血管,神経とともに浅鼡径輪にすすみ,鼡径管を通りぬける.腹膜下鼡径輪のところでは急に下方に向きを変えて小骨盤にはいる.したがって精管には精巣上体部・精索部(自由部と鼡径部)・骨盤部Pars epididymica, Pars funicularlis(Pars libera, Pars inguinalis), Pars pelvinaを区別する.
局所解剖:精管は精索のなかでは精巣動静脈の後内側にあり,その固いことによってこれらの動静脈から容易に区別することができる.腹膜下鼡径輪のところで精管は動静脈と別れる.動静脈は腰部にすすみ,精管じしんは下方に向うのである.下腹壁動静脈は腹膜下鼡径輪のところでは精管の内側にある.精管は腹膜下鼡径輪から小骨盤にすすみ,腹膜によって被われており,腹膜をもち上げて小さなひだを生ぜしめている(図116).ついで膀胱の側面に達して,後方に曲り,さらに前方かつ内側に曲がって膀胱底にゆき,正中線のすぐそばで前立腺の膀胱面に達する(図262, 270).
精管は骨盤のなかを走るあいだに,閉鎖した臍動脈(臍動脈索)の上を越え,そののち尿管の上を越える(図262, 270).膀胱底のところでは左右の精管は次第に近よtり,ついにはやや長めの2つの精嚢腺のあいだでたがいに相接して並ぶ.ここではもはや腹膜には被われていない.そのかわりに結合組織によって膀胱の後壁と直腸の前壁とにかなりしっかりと結合して,膀胱傍結合組織Paracystiumと直腸傍結合組織Paraproctiumのなかに存在している.
精管の全長は50~60cmであるが,そのうちうねっていない部分は30~40cmである.左の精管は右のものより1~3cm長いのが普通であるが,まれには左右同じ長さのことがあり,それよりいっそうまれには右のほうが長い.これは陰嚢内で左の精巣がいっそう低い位置をとることが多いためである.精管はほとんど全長にわたって円柱形あるいはやや圧平された形で,直径は平均3.0ないし3.5mmである.
精管はその終りのところが広くなって精管膨大部Ampulla ductus deferentisとなる.そこは少しくうねり,膨大部憩室Diverticula ampullaeという小さい膨らみを呈している.しかし精嚢腺の導管と結合するところに向かってまた網くなる.したがって膨大部は紡錘形をしている(図270).精管の終末部は射精管Ductus ejaculatorius, Ausspritzungskanäilchenといい,これは前立腺の体を貫いて精丘において尿生殖管に開口している(図266, 267).
精管の壁ははなはだ厚くて固い.内腔はせまくて,管の外径のやっと1/3~1/6をしめるにすぎない.膨大部のところだけは壁が比較的薄くて,管は著しく広くなり,外方への膨らみがたくさんみられる.
S. 241
精嚢腺GIandula vesiculosa, Bläschendrüseは膀胱底と直腸のあいだで精管の外側にある.そして膜性の壁をもったやや長めの中空のもので,膀胱にしっかり着いている.
その長さは4~5cm,幅は1.5~2.4 cmである.たいてい左右の大きさは同じでなく,またその大きさも人によってさまざまである(図262, 270).
後端は鈍くて,左右のものが遠く離れている.しかし前方に向かってたがいに近より,膀胱の後面のところではそのあいだに左右の精管だけがたがいに近く並んではいっている.腹膜が膀胱底から直腸に折れかえるところは,ほぼ左右の精嚢腺の外側端を結ぶ横の線に一致している(図270).しかしこの腺の後面の一部は多少とも腹膜で被われていることがある.
左右の精嚢腺は,複雑なたるみをもってややうねっている管であって,丈夫な結合組織によってそのうねりやたるみが保たれている.したがってこの器官の外観は多数のふくらみをもった袋のようである.つながりを取り除いて,袋をひきのばすと,その長さは10~12 cm,幅は0.5cmある.この管のいちばん外側の端は閉じて行きづまりになっている.そのほか必ずあるとはいえないが,普通は長短いろいろの側方への膨れ出し,ないしは枝分れが存在する.精嚢腺の前端は細くなっていて排出管Ductus excretoriusといい,まっすぐであって,前立腺の底のところで,同じく細くなった精管に鋭角をなして開口している.精管はそこから射精管という名前となるのである.
両側の射精管の初まりのところは前立腺の膀胱面の後縁に密接している.射精管はここから前下方にすすみ,同時に正中線に近づいてゆく.ついで相並んで前立腺の峡と左右の両葉のあいだを前方に達する(図320).ぜんたいとして約2cm走っているあいだになおもいくらか細くなって,最後に左右それぞれ裂け目のような小さい開口部をもって尿管の前立腺部の後壁に開いている.そこを射精管口Porus ejaculatoriusといい,精丘の上で前立腺小室Utriculus prostaticusの口のすぐ左右に接している(図266, 267).
射精管は精管と精嚢腺のなかに含まれている分泌物を尿管,すなわちもっと正確にいうと尿生殖管Canalis urogenitalisに送りだす役目をもつのである.
精嚢腺の管系統の変異についてはPallin, Arch. Anat. u. Phys.1901を参照されたい.
精管と精嚢腺の構造
精管は外側に線維性の被膜,すなわち外膜があって,そのなかに平滑筋の束がまじっている.内側は粘膜によって被われている.外膜と粘膜のあいだにはなはだよく発達した筋層がある.これらの各層は精巣上体管の各層の続きである.粘膜は白っぽい色をしていて,3本ないし4本の低い縦走するひだがあり,2列円柱上皮をもっている(図314).内腔を囲んでいる細胞はその自由面に不動毛が密生して束をなして突出しており,また細長い核をもっている.この細胞の底部のあいだにある基底細胞は球形の核をもっている.上皮の下には粘膜下組織がある.(粘膜固有層というべきであろう.(小川鼎三))
それに続いて内側の縦走筋層すなわち内層Stratum internumと中央の輪走筋層すなわち中層Stratum mediumおよび外側の縦走筋層である外層Stratum externumとがある.筋線維の束は豊富な結合組織で包まれている.各層の境は腸のばあいほどには明瞭でなくて,筋束がいたるところで1つの層から他の層に移行している(Goerttler 1934).おのおのの筋束は管壁を内から外に向かってラセン状に走って貫いており,しかもその方向は右あるいは左にまいている.
精管膨大部の壁はそれより上方にある精管の各部と同じ層をもっているが,筋層だけは発達がいっそう弱い.粘膜には網状をした多数の小さいひだがあって,不規則な多角形のくぼみや,小さなへこみを囲んでいる.
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膨大部の粘膜には分枝した小さい腺がある.円柱形の上皮は多量の黄いろい色素粒子をもっている.
精嚢腺(図318)の構造は膨大部のものに似ている.すなわち外側の結合組織の被膜と3層の平滑筋層,および淡い褐灰色をした粘膜をもっている.粘膜は網状につながった小さなひだを形成していて,そのあいだにかなり深いくぼみがある.上皮は黄いろい色素をもつ丈の低い円柱細胞からなっている.
精嚢腺は精子の貯蔵所ではなくて,蛋白質を含む液を分泌するのである.その液のなかにはときおり精子の存在することもある.
射精管は(図320)円柱上皮をもっている.この上皮が開口部の近くでは重層扁平上皮にかわる.筋層は外側と内側の縦走層とその間の輪走層からなりたっている.外膜はこの管の全長にわたって密な静脈叢を豊富にもっている.
血管:精嚢腺には血管がはなはだ多い.これは上・下の直腸動脈の枝と,精管動脈および下膀胱動脈によって養われている.
神経:結合組織の被膜のなかには密な神経叢があり,そこには大小多数の神経節がみられる.
精液Sperma(Semen), Samen
精液は男の生殖源で,射精されたときの状態は白色がかつて粘性のつよい濃い液体でアルカリ性の反応を示し,独特の臭いがある.これは空気に触れると流動性がますようになり,本当の液体成分とそのなかに含まれている有形成分とからなっている.精液は精巣とその導管に開口する付属の諸生殖腺からの産物が合わさったものである.
精巣は精子をつくるほかに,少量ではあるが精子を運ぶに必要な液を分泌している.この精巣でできる精液の最初の成分はやはりアルカリ性か,あるいは中性である.しかし臭いはなくて,たやすく乾燥する傾向がある.
精嚢腺・精管の膨大部・前立腺・尿道球腺からの分泌物は精巣の分泌物が外にでるとき,それに混じるのであるが,これらが射精された精液のかなりの部分,恐らくはその大部分をしめている.射精が急にひきつづき行われると後者の割合いがいっそう多くなる.
精液の本質的な要素は精子Spermien, Samenfädenod. Samenkörperchenである.これは以前は精虫Spermatozoenと名づけられていた.
新たに仕事で落ち着いてする方法
精子の運動はその尾部を振子様または波状に振ることによっておこる.この運動によってその軸のまわりに回転しながら1秒間に25µの速度(Adolphi)でまっすぐ前方に進む.精巣の濃い精液ではこの運動は全くないか,あるいはごくゆっくりしたものである.運動が最も速いのは射精されたばかりのときである.運動の継続する期間は周囲のいろいろな条件によって支配されるのであって,もっとも長く続くのは精液の濃度と同じか,あるいはそれに近い液のなかである.前立腺や尿道球腺の分泌物,および女の生殖器の正常な分泌物のなかでは特に活ばつである.精液を水または唾液で強く薄めると運動は短時間のうちに,あるいは即刻停止してしまう.だいたいにこの運動の生成は線毛運動Flimmerbewegungのばあいと似た条件に 支配されている.それは精子が線毛細胞と近縁のものだからである.--精子は液体の流れが秒速3µ以上であるときはこれに逆らってすすむ(Adolphi, Anat. Anz., 26. Bd.,1905).
精液にふくまれるその他の有形成分としては無色の丸い小さい小体,いわゆる精液粒子Samenkörnchen,それに脂肪粒と,生殖器のいろいろな部分から脱落した上皮細胞である.
精巣の分泌物は精細管の中軸部,ついで精巣網に集まり,それから精巣上体の諸管,さらに長い精管に集まってくる.精嚢腺は全く精子を貯えていないし,この腺は多くの動物では欠如するのである.それゆえ精嚢腺は精子の貯臓所ではなくて分泌器官であり,その生産物は蛋白質性の液体であって,これが精巣の分泌物に混じるのである.しかし生殖能力のある健康な男の精嚢腺には常に少数の精子が存在している.
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3. 精索Funiculus spermaticus, Samenstrangおよび精巣と精索の被膜Tunicae testis et funiculi spermatici, Hüllen des Hodens und des Samenstranges
精巣は何枚かの膜に包まれて陰嚢のなかにはいっていて,陰嚢はその最も外側の被膜である.被膜は腹壁の各層に一致していて,これらが袋のように突出したものであり,陰嚢の壁をなしている.
[図316]鼡径管にはいる前の精巣と精巣上体(模型図)
1 前腹壁の壁側腹膜;1'後腹壁の壁側腹膜:2と3 腹膜鞘状突起の柄と袋の内部,すなわち陰嚢腔Cavum scroti:4精巣:5精巣上体:6精管:7精巣上膜.
[図317]精巣と精索の被膜 模型図
v 前, h 後,1精巣:2精巣上体:r陰嚢腔.
精巣は初めから陰嚢のなかにあるのではなくて胎生期のかなり遅い時期になって,初めてそこに達するのであって,そのとき精巣はそれが発生した腰部から下降してきたのである.これを精巣下降Descensus testisといい,そのさい精巣は鼡径部において前腹壁を貫く.しかし精巣はこの目的のために腹壁を前方にもちあげるのでもなく,そこを破るのでもない.精巣がのちにはいってくるための袋は精巣じしんが鼡径管を通過するよりもずっとまえに∫腹壁のすべての層をそなえてあらかじめできあがっているのである(図316).
精巣にゆく血管とそれを支配する神経,および精管は精巣に伴なっていく.このようにして精巣は結局いく層かの袋に包まれることになる.精巣の上端から内鼡径輪まで伸びている索状になったこの袋の部分は,その内容物とともに精索Funiculus spermaticus, Samenstrangとよばれる.
1. 最内層は精巣を包むもので,腹膜の続きである.これは精巣上膜Epiorchiumとなって精巣と精巣上体の表面の大部分を被い,ついで精巣膜Periorchiumとなって陰嚢腔の内面を被っている.陰嚢腔Cavum scrotiは精巣膜と精巣上膜のあいだにある隙間のような空所である(図297, 300, 317).
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精巣膜と精巣上膜は腹膜が鼡径管をへて陰嚢に突出した突起,すなわち腹膜鞘状突起Processus vaginalis peritonaeiの一部が開いたまま残った部分である(図316).正常のばあいにはこの突起の長い柄はたがいに向い合っている壁が融合して,腹腔口から精巣の近くまで退行する.こうして1つの索状の残りものとなって精索のなかにみられる.これを鞘状突起遺物Rudimentum processus vaginalisという(図317).腹膜下鼡径輪のところでしばしばこの造物の線維性の束が腹膜とつながっている.これはさまざまな長さをもっており,ときには細い索となって精巣膜まで達していることがある.しかしときおりこの細い索の痕跡もないことがある.
精巣膜の上端は成人においてもなお精索に沿ってある距離だけ上方にのびていて,それに伴って陰嚢腔がとがった先をもって終る袋となっていることがかなりしばしばある.そのほか陰嚢腔が開いた管となって鼡径管を通ってずっと上行して,腹腔の腹膜嚢の高さに伸びていることがある.これは人間では胎生期にみる状態であり,また多くの動物においては一生残っている状態である.また多数の小さい腔所が精索の前面に沿って存在することがあり,あるいは腹膜と開放性につながった長い突起が鼡径管をへて下行していって,精索のなかで行きづまりに終わっていることがある.
腹膜鞘状突起が完全に,あるいはその一部が開いたまま残っている場合はすべて先天性鼡径ヘルニアHernia inguinalis congenitaの起るもとをなしたり,あるいはそれが現に起こっている.
精巣はその下降にさいして,常にその道程を完全に通ってしまうわけではない.それが鼡径管に達する前に,あるいはこの管のなかでのこともあるが,とにかくいろいろな所で停止することがある.これらの場合にはいずれにせよ陰嚢腔は空つぼである.前者の場合は精巣隠匿症Kryptorchismusである.後者の場合は生殖器のほかの発育障害と合併していることが多いが,またこれらがほとんど完全にできていて,生殖能力の障害もないこともある.
多くの哺乳動物では精巣はいつも腹腔中にとどまっている.また精巣が陰嚢に達していて,一生そこにとどまつたままでいるものもあり,あるいは発情期だけ挙睾筋の働きで腹腔に戻るものもある.
腹膜鞘状突起は女の胎児でも形成される.これはいわゆるヌツク管Canalis Nuckiとなって鼡径管を貫くが,腹壁の前面までしか達しない.それに伴って女には子宮鼡径索があり,これは男の精巣導帯Gubernaculum testisと相同のものである.腹膜鞘状突起と管の残りは成長した女にもやはり存在する(ヌツク憩室Diverticulum Nucki).
2. 上に述べたものと疎性結合組織によって結合しているその次の膜が,腹横筋膜Fascia transversalisのつづきをなすものである.腹膜が両側で鞘状突起をつくるのと同じく,腹横筋膜もポケット状の突出部を作る.これは腹膜の鞘状突起よりも容積が大きい.というのは腹膜の鞘状突起を包んでいるだけでなく,精管・精巣動脈・精巣動脈神経叢・精巣静脈・この静脈が作る蔓状静脈叢および深層のリンパ管を包んでいるからである.これらの脈管と神経はすべて疎性結合組織によってまとめられている.これらのものを包んでいるので腹横筋膜のポケット状の突起は精巣および精索の鞘膜Tunica vaginalis testis et funiculi spermaticiともいう.この鞘膜の内壁には平滑筋の線維が付いている.これを精巣鞘間筋M. intervaginalis testisという.
3. この鞘膜の外側には赤い色をした挙睾筋Musculus cremasterが接している.これは横紋筋からなる不完全な1層で,内腹斜筋から起り,浅鼡径輪を貫いて,係蹄状の束をなして鞘膜およびその内容物を取りまいている(第1巻,図493).
4. 挙睾筋膜Fascia cremasterica.これは外腹斜筋じしんの筋膜のつづきをしている.
この筋膜は浅鼡径輪のところでしばしば脚間線維Fibrae intercruralesときわめて著明につながり,主として浅鼡径輪の縁から起こっている.
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これとともに浅腹筋膜Fascia superficialisの薄い続きが陰嚢のなかに達している.
5. 皮下組織Tela subcutanea.皮下の結合組織--しかし脂肪組織は含まれていない--も精索に伴って陰嚢にいたる.そしてここでは平滑筋線維を豊富にもっていて,これが主な構成成分となっている.
この平滑筋線維の層は軟かくて厚くて,赤みがかつており,肉様膜Tunica dartos; Fleischhautと名づけられる,これによって精巣は陰嚢のなかで容易に移動させられるし,またこれが縮むことによって陰嚢の皮膚にひだやしわができるのである.
6. 皮膚Cutis.これは上に述ぺたいろいろな被膜のいちばん表面のもので,体の皮膚が突出してつくる1つの袋であり,左右の精巣と精索の終末部のまわりを包んでいる.この突出部はこれに属している皮下組織とともに陰嚢Scrotum, Hodensackという.
陰嚢は体格のよい丈夫な人ではあまり引き伸ばされていないで,著しくしわがある.そして寒冷の作用によっていっそう強くちぢむ.虚弱な人,または病人ではゆるんでいて,かなり強くたれ下っている.その表面には中央部に低い高まり,すなわち陰嚢縫線Rhaphe scrotiがあって,陰嚢は左右の各半がたがいに融合してできたものであることを示している.この縫線は陰茎の下面から陰嚢と会陰の上をへて肛門に伸びている.会陰ではそれが会陰縫線Rhaphe perineiとよばよる.
陰嚢の皮膚は薄くて,普通はその他の体の皮膚よりも黒ずんだ色をしている.ここには多数の大きな脂腺があり,また毛が散在している.毛包はたいてい小さい高まりの形をしていて,肉眼でもみえるし,あるいは触れることができる.また浅層の血管も薄い皮膚を通してすいて見える.そのほか陰嚢とその周囲には多数の汗腺がある.
肉様膜は会陰,大腿の内側面および恥丘の皮下の結合組織にずっと続いている.ここには脂肪組織は全くないか,あってもごく散在するにすぎない.陰嚢の前方と側方にある脂肪組織は陰嚢じしんの周りに近づくと次第に減り痕跡的となる.それに反して平滑筋は増加する.肉様膜の組織は陰嚢の前部のほうがその後部よりも豊富であって,2つの部に分れておのおのの側の精巣を包んでおり,また両方のあいだに隔壁,すなわち陰嚢中隔Septum scrotiをつくっている.
陰嚢およびその内容の脈管と神経
精巣・精索の被膜・陰嚢の3者はそれらの脈管の配置について興味のある関係を示している.すなわちたがいに3層をなして重つている脈管区域がある.それらの起りが全く異なっていて,これらの3部にそれぞれ相当する脈管圏がある.
精巣はもともと腹腔の内臓であるから,その動脈は腹大動脈の幹からくる.精索の被膜は前腹壁がふくれ出たものであるから,そこへゆく血液は腹壁を養う血管からくるのである.陰嚢は皮膚の突出した部分であるから,そこの血管層は大部分が大腿動脈からと,内腸骨動脈の会陰枝からきている.
精巣動脈A. spermaticaは腹大動脈の臓側枝で対をなしており,腰筋の表面を腹膜に被われて腹膜下鼡径輪まで下行し,精索のなかをへて精巣と精巣上体に達している.この動脈は内腸骨動脈から出る精管動脈A. deferentialisの反回する部分と吻合する.精管動脈は精管に伴って走っている(図319).
精索の被膜の動脈は挙睾筋動脈A. m. cremasterisである.これは下腹壁動脈が腹膜下鼡径輪のところで出す1枝である.この動脈が鞘膜と精巣膜に出す枝は精巣動脈の枝が精巣上膜を養うものとつながっている.
陰嚢動脈Aa. scrotalesは内腸骨動脈から出る内陰部動脈の枝である.それより細い陰嚢枝Rami scrotalesは大腿動脈から出る外陰部動脈の枝である.
陰嚢の皮膚にはリンパ管が豊富である.これは一部は前方に,一部は後方に流れている.
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精巣の静脈はよく発達した蔓状静脈叢Plexus pampiniformisをなして精索のなかを上行している.これが病的な拡張をひきおこす傾向がある.この静脈叢は次第に何本かの静脈に集まり,最後に1本の精巣静脈Vena spermaticaとなる.その右側のものは近くの下大静脈に入り,左側は左腎静脈に開いているのが普通である.
陰嚢の皮膚に分布する神経は腸骨鼡径神経の陰嚢枝と陰部神経の陰嚢神経である.また挙睾筋と肉様膜は陰部大腿神経の陰部枝で支配されている.精巣は精巣動脈神経叢からの神経を受ける.この神経叢は腎神経叢と上腸間膜動脈神経叢からきており,また腹大動脈神経叢から少数の細い神経を受けていて,精巣動静脈とともに精巣に達している.
精巣はリンパ管がはなはだ豊富である.リンパ管は密な網をなして精細管にからみついている.そして細い管に集まって精巣小中隔のなかを走る.しかしリンパ管は精巣小葉のあいだでたがいに合している.流出路は2つある.主な流れは精巣縦隔に達し,ついで精索にすすむ.他のものは精巣ぜんたいの上を包んでいる白膜の下に広がるリンパ管網に注ぐのである.この網は白膜を貫いて多数の枝を漿膜下の密なリンパ管叢に送っている.重なりあったこれら2つの網から,おのおの幾本かの比較的太いリンパ管がでてきて精巣上体に向かってすすむ.こうして集合してできたリンパ管,と精巣縦隔のリンパ管から精索に沿って上行する4~6本のかなり太いリンパ管ができるのである.これらのリンパ管は2~4個のリンパ節に注ぐが,そ� ��リンパ叢のうち右側のものは左側のより少し下方に存在している.右側のリンパ節は下大静脈に接しており,左側のは大動脈の側方で左腎静脈から遠くないところにある.それからリンパ管はさらに上方で大動脈の前面,およびこれと下大静脈のあいだにあるリンパ節とリンパ管にいたり,最後には乳康槽Cisterna chyliに開口している.
[図318]ヒトの右精巣の動脈(A. Jarisch,1899)
i 精巣動脈;e 挙睾筋動脈;d 精管動脈.
4. 前立腺Prostata, Vorsteherdrüse(図262, 266, 267, 270, 319~321)
前立腺はその大きさ(日本人の成人の前立腺の長さは平均2.72cm,幅は3.93 cm,厚さ1.71 cm,重さは14.74 grである(斎藤幹, 日医大誌5巻,昭和8年).)と形が食用栗に似た固い腺であって,その上方には膀胱の尿道への移行部がのっており,その内部に尿道の初部を含んでいる.この尿道の前立腺部Pars prostatica urethraeのほかに,前立腺にはなお形態学的に重要な前立腺小室Utriculus prostaticusがある.これは女の腟と相同のものである.そのほかに多数の腺,すなわち前立腺の腺Glandulae prostaticaeがあり,また多量の平滑筋と少量の横紋筋がある.それに射精管の終末部をももっている.
局所解剖:前立腺は骨盤の下部において,骨盤筋膜の前部と内尿生殖隔膜筋膜とのあいだにある.側方は左右の肛門挙筋の内側縁によって境されている.恥骨結合からは1.0~1.5cm離れている.恥骨前立腺靱帯は前立腺の前面を恥骨の後面に固着させている.前立腺の側面は凸をなして,強く突出している(図262, 270).
縦径は3.2 cmないし4.2 cm,幅は3.5 cmないし5cm,最大の厚さは1.7cmないし2.3cmである.重量は17grないし28grである.
底にあたるところは膀胱面Facles vesicalisといい膀胱と結合している.尖端は尿生殖隔膜に向かっている.前面は恥骨面Facles pubicaといい恥骨結合に面している.後面,すなわち直腸面Facles rectalisは直腸に向かっていて,その前壁とは結合組織と平滑筋束によって結合しており,直腸内から前立腺を触れることができる(図266).
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前立腺は左右の外側部Partes Iaterales, Seitenlappenからできている.この両部分が後方は前立腺峡Isthmus prostatae(中葉Lobus medius),前方は前立腺の尿道前部Pars praeurethralis prostataeによってたがいにつづいている.外観的には前面にある浅い溝によって左右に分けられている.峡(中葉)は普通のときには前立腺の1葉という形をしていることは少なくて,ただ結合部という形である.左右の射精管は峡の後方から精丘に向かってすすんでいる.なお241頁と図320を参照されたい.尿道前部は尿道の前立腺部の前方にあって,しばしば前立腺の外側部によって被われている.
前立腺の内部にある諸構造
a)尿道の前立腺部Pars prostatica urethrae(図266, 267)
男性尿道Urethra masculina, männliche Harnröhreは長さの違う4つの部分,すなわち壁内部・前立腺部・隔膜部・海綿体部Partes intramuralis, prostatica, diaphragmatica, cavernosaからなりたっている.
前立腺部は前立腺によって包まれていて,長さは3~3.5cm,直径は平均1cmである.その中央部が最も広くて,下端は最も狭い.そして前方に開いた弓を画いて少しまがっている(図266).
[図319]精丘を通る横断図×18
1 前立腺小室;2, 2射精管,斜めに切れたもの;3, 3尿道腺;4前立腺結石Concretiones prostaticae;5精丘の海綿体部;6, 7 尿道の内表面,6と7のあいだは精丘外側溝.
粘膜は引き伸ばされないときには縦走するひだをもっており,そのほかに不規則に並んだこぎれいな丈のひくい小さいひだがある.前立腺部の後部には膀胱垂の続きをなす1つのひだがある.これは尿道稜Crista urethralisといい,尿道の隔膜部まで達しており,その下端がしばしば叉状に分れている.尿道の前立腺部の中央で尿道稜は長く伸びた紡錘形のたかまりを作っている.これを精丘Colliculus seminalis, Samenhügelという(図267).その長さは約2cm,最大の高さと幅は3~4mmである.その両側には縦走する溝(精丘外側溝Sulci laterales colliculi)があり,その溝の底には前立腺の腺が多数の口をもって開いている(図267).尿道前立腺部は精丘によって内部Portio internaと外部Portio externaに分けられている.
精丘の上でその頂上の中央にはすぐ後に述べる前立腺小室が開き,その両側には射精管の開口がある.これら3つの開口部はみな裂け目のような形をしている.前立腺小室の開口部は他のものより広い(図267, 319).
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[図320]ヒトの前立腺を通る断面 射精管の走行に対して横断したもの.
[図321]前立腺の腺体 強拡大
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[図322]男の尿道の海綿体部の中間部を通る横断面
[図323]男の尿道の上皮と尿道傍腺 図322の標本の一部.
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ときおり射精管は前立腺小室の終りの部分に開いている.
尿道の前立腺部は単層の円柱上皮をもっている.精丘はその基礎として中軸部に弾性線維の網からなる縦走索をもっている.これは膀胱三角においてよく発達している縦走筋線維束とつづいている.この弾性網の目のなかには平滑筋の縦走する束がある.この縦走索は海綿状の組織,すなわち静脈血のはいっている腔所をまじえた組織によって包まれている.この組織が静脈腔をとりまいてひろがっていて,前立腺の腺体と同じ構造をした多数の小さい尿道周囲腺をもっている.
粘膜の外には筋層が続いている.その内側の層は平滑筋からできていてその縦走線維層である.その外側には同じく平滑筋の輪走層が接している.
b)前立腺小室Utriculus prostaticus(図267, 319)
前立腺小室は正中線上で前立腺の実質中に入りこんでいる袋で,長さは8~10mm,その開口部の広さは1~2mmであるが,行きづまりに終る底の広さは4~6 mmに達していることがある.しかしその大きさと形は個体によってきわめてまちまちである.欠如していることさえある.また開口部が閉じていることもある.
前立腺小室には上部と下部の2部分が区別できることが珍しくない.前立腺との間をはっきり境するような壁は存在しない.小室の壁は粘膜と平滑筋線維とからなっていて,後者は広い血液腔を豊富にまじえている.粘膜には2種のひだがある.1つは収縮ヒダKonstraktionsfaltenで,いま1つは構造ヒダStrukturfaltenである.後者はいろいろな長さのこぎれいな高まりであって,副小ヒダNebenleistchenを伴っているのが普通である.上皮は円柱細胞と補充細胞とからできている.粘膜はさらに腺をもっていて,これは単一または複合管状腺に属している.この器官は発生学的にみると女の腔と相同のものという点で重要である.
c)射精管Ductus ejaculatorii
これについては241頁においてすでに記載した.
d)前立腺の腺Glandulae prostaticae
前立腺には30~50個の分枝胞状管状腺があって,これが前立腺という器官の大きな部分をしめている.これらの腺は尿道の前立腺部にかなり細い多数の導管,すなわち前立腺管Ductuli prostaticiをもって開いていて,漿液性の液体である前立腺液Prostatasaftを分泌している.
腺細胞は丈の低い円柱細胞であって(図321),胃の円柱細胞に似ており,腺腔に向かって開放している.その比較的太い導管は尿道の前立腺部と同じように重層上皮で被われている.
年令のすすんだ人では終末部のなかに,いわゆる前立腺小体Prostatakörperchenのみられることがまれでない.これは固くて,丸く,褐色をおびており,大きさは1mmに達することがあり,層構造を示している.またこれが石灰化していることもあって,そのばあいにはいわゆる前立腺石Prostatasteinとなっている.
e)前立腺筋Musculus prostaticus
前立腺には平滑筋がきわめて豊富にあって,これが腺とともに前立腺の主要成分をなしている(図320).
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最終更新日 11/05/16
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